2020/11/10

清秋の八重山


10月下旬〜11月上旬 

-天高く馬肥ゆる11日間の八重山遠征記


1日目

本遠征は、これまでとはわけが違う。出発の2週間ほど前に急遽計画した一人旅なのである。しかも過去最長の11日間にわたる、西表・石垣・与那国をめぐる旅。石垣と西表はこれが2回目、与那国は初である。

「戦う前の準備が勝敗を決する」
これは最近見始めたアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」でジョセフ・ジョースターが孫子の言葉を借りて放った言葉。
その通りだ、出発前から綿密な計画と準備をした。出発前日には、道端に落ちていた財布を届けるという徳も積んでいる。
きっと良い虫が採れるに違いない。

朝5時、家を出発して成田空港→石垣空港へ。ちょうどお昼頃に着いたので、石垣港近くのお店で八重山そばをいただいた。最初の目的地、西表島の上原港へはフェリーで40分ほど。北風が強く、激しい波しぶきの中、前の席に同乗していた直翅類も私と同じ西を向いていた。

フェリーからの眺めと直翅類

西表島では、最初の4泊は金城旅館さんに、最後の1泊は星砂荘さんに宿泊することになっていた。金城旅館の女将さんは植物に詳しいとの話を聞いていたので、レンタカーを借りてから心を躍らせて旅館へと向かった。
「チョウ屋さん?」「いえ、アメンボとかゲンゴロウみたいな水辺の昆虫です」
これが女将さんとの最初の会話であった。
4日間お世話になる部屋。居心地も眺めも最高。

いてもたってもいられず、夕方16時、初陣へ。
パワーギアで気合いを入れていく

狙いをつけていた池への途中、林道の染み出しには無数のケシカタビロアメンボがいた。池に到着すると、一見良い感じなのだが、採れたのはクロイワコマツモムシやヒメコマツモムシのみ。そしていきなりウェダーの右足底のフェルトがはがれ落ちた。。。先が思いやられる大きすぎる代償。

夕食が18:30なので、一旦旅館に戻った。宿泊者の一人が釣ってきたというイシガキハタが唐揚げになって食卓に並んだ。食べやすい魚ではないが、味はとても美味しかった。

夕食後は近くの林道へと向かった。林道の脇に水たまりを見つけた。真っ先に目に飛び込んできたのは、前回の西表島遠征で見つけられなかったアトホシヒラタマメゲンゴロウ!!黒い地に黄色の模様がよく目立っている。黒色もただの黒ではない、ツヤッツヤの黒だ。
傍らでウスグロヒラタガムシもじっとしている。
左:アトホシヒラタマメゲンゴロウ、右:ウスグロヒラタガムシ

さらに林道の染み出し部分にできた水たまりに、イリオモテケシカタビロアメンボ!生殖節がでっかい。。。さらに別の水たまりにはウエノケシカタビロアメンボ!!なんだここ、すごいすごい。
生殖節でか。イリオモテケシカタビロアメンボ

上:ウエノケシカタビロアメンボ雌、下:雄

豪華メンバーが勢揃いでテンションが上がったが、ここで手を緩めてはいけない。
今度はその水たまりをかきまぜてみることに。ちゃぷちゃぷ、ちゃぷちゃぷ、、、きたきたきたっ!
ダルマガムシsp.(後日同定します)

ちゃぷちゃぷすればするほど浮いてきた。いくつかつまんで1日目は終了。


2日目
昨晩の林道のさらに奥には、湿地と某種の棲む沢があると教えてもらったので、行ってみることにした。リュウキュウアサギマダラやヤエヤマムラサキが舞っていた。進んで行くと、植物が生い茂り、踏むと水が滲み出る程度の浅い湿地があった。チビコツブゲンゴロウやヤギマルケシゲンゴロウ、オオマルケシゲンゴロウ、サビモンマルチビゲンゴロウ、セマルガムシsp.が得られた。
さらに進むと沢が見えてきた。広めのよどみにはタイワンシマアメンボが群泳している。そして狭めのよどみに、いた!!これは赤い、間違いない、国宝タカラナガレカタビロアメンボだ。混じってイリオモテケシカタビロアメンボも水面を歩いていた。
渓流の赤い宝石タカラナガレカタビロアメンボ

ぐんぐん沢を登って行くと、浅く砂つぶが細かくなってきた。足元の砂利をじっと見つめていると、別の赤いのがゆっくりと歩いている。アリタツヤドロムシだ。
アリタツヤドロムシ

午後はサンゴ礁へと移動。東経123°45'6.789"のモニュメントを撮影し、お昼は八重山まぜそばというのを食べた。
デザートにバナナミルクアイスまで食べて。

サンゴ礁には干潮を少し過ぎた頃に到着した。
もうおわかりだろう。狙いは三大サンゴ半翅類。すなわちサンゴアメンボ、サンゴカメムシ、サンゴミズギワカメムシだ。天気は快晴、青く広がる海に美しい砂浜。観光客は水着を着て泳いだりしている。
その傍らで岩礁にへばりつくようにして小さなカメムシを探す。こんなにがんばっているのに、探しても探しても見つからない。水面に黒い甲虫が浮いていた。陸生の虫が飛ばされたんだろう。助けようと思い、拾い上げた瞬間、ピンッ。。飛び跳ねて姿を消した。「驚くと飛び跳ねる黒い甲虫。。。」あっ、チビドロムシだ。時すでに遅し。一度視界から消えたらもう見つけることは不可能。結局何もゲットできないまま潮が満ち始め、やむなく立ち去った。

まだ夕食までには時間があるので、大見謝川へと向かった。
駐車場からすぐ川に降りることができ、水流と石が作り出したポットホールが点在している。
その中を覗き込むと、ケシカタビロがいるいる。これが噂のでかいカスリか。カスリケシカタビロアメンボよりも一回り大きいのがどうやらこの辺にはいるのである。
でかいカスリケシカタビロアメンボ

でかいカスリよりもさらにでかいのが視界に入った。しかし、一瞬で水面からいなくなる。撮影も採集もまともにできない。ようやく採れた!これがヒラシマナガレカタビロアメンボ。水面というより、水面付近の壁面にしがみついていたのだ。マットな黒色の翅をもつ長翅型もいた。
左:ヒラシマナガレカタビロアメンボ無翅型、右:長翅型

宿に帰り、贅沢にもタカラナガレとヒラシマナガレを見比べながらオリオンビールを飲んで寝た。


3日目
まず、教えてもらったタイワンミズギワカメムシポイントへと向かったが、いくら探しても見つからなかった。どうしても撮影したかったのだが、時期の問題だろうか。
続いて、東へ東へと移動し、良い環境の川に入った。右足底のフェルトがないので、特に川では凸凹が直に足裏に伝わる。右足だけ無限足つぼマッサージ状態で辛い。
川に入ったら、まずすること。それはしゃがみこんで岸際の砂利をかき混ぜること。これは最近の常識。かき混ぜていると、浮いてきたのはリュウキュウツヤヒラタガムシ。奄美で苦い思い出のある種だ。ついにここでお目にかかれた。
石の表面をするすると歩くリュウキュウツヤヒラタガムシ

さらにかき混ぜていると、もうこれは見える人のほうが少数なのではないかという極小サイズ、体長1mmほどのタイワンミジンダルマガムシ。
とにかく小さい。微塵だ。

ヤエヤマツヤドロムシやアマミミゾドロムシ、ヤエヤマアシナガミゾドロムシといった、八重山のヒメドロたちも集まった。さらに川を登っていくと、岸際にホルバートケシカタビロアメンボやここでもでかいカスリケシカタビロアメンボがいた。しゃがみこんで撮影していると、横に置いていたたも網に、ぽとっと何かが落ちた。
こいつやったな、くそぅ。

お昼はスーパーで太巻きとタンカンジュースを買って車内で食べた。
そしてサンゴ礁へとリベンジに挑んだ。今回は干潮ぴったりだ。
すると、タイドプールにアメンボが泳いでいる!ま、まさか!残念ながらサンゴアメンボではなく、ウミアメンボ属の幼虫。コガタウミアメンボの幼虫だろうか、嬉しくなくはないのだが。やっぱりサンゴアメンボをこの目で見たい。
ウミアメンボ属sp.の幼虫

しかし、やはり探しても探しても三大サンゴ半翅類は見つからない。と、その時ヤツが再び現れた。今ならわかる、これはババチビドロムシだ。ひとまず撮影をと一瞬カメラのほうに目を離した時だった。視線を戻すとそこにはもうヤツの姿はなかった。。。
わかっていたのに、再び訪れたチャンスを逃したのだ。
もうダメだ、なにも採れない。。。

ネガティブモードのまま、太巻きだけではお腹が空いたので、唐変木というお店でフーチャンプルー定食を食べた。
ぺろりと完食おしゃれなランチ。

泣く泣くサンゴ礁をあとにし、水田地帯へと向かった。
水田では、チビマルガムシ(ひょっとするとミナミチビマルガムシ)やコマルケシゲンゴロウ、ウスイロシマゲンゴロウ、チビヒラタガムシ、ルイスヒラタガムシが網に入る。ふと、水際の植物をかき分けると、トゲミズギワカメムシの幼虫が歩いていた。どうやら本種は南西諸島まで広く分布しているらしい。セマルガムシsp.も泥の上を歩いている。ん?大きさがチビマルガムシ以上セマルガムシ以下の、黒くて丸いガムシが泥に埋もれているではないか。こんなのいたっけ...?
指に乗せた時、脳裏によぎるものがあった。もしや。。。
指の上で転がして、腹側を拝見。
ああっ!やっぱり、びっしり毛束が生えているではないか。

これは2019年に日本から初記録属として発見された、ヒメタマガムシ!
属は異なるのに「タマガムシ」と名前につくせいか、勝手に泳ぎが得意なのかと思い込んでいた。セマルガムシより陸側に多く、いわゆる半水生種であったのだ。そしてかわいい。
サンゴ礁のネガティブモードから一転。
そうだ、そうだった。私のフィールドは水中でもサンゴ礁なんかでもない、水際だ。これまでもそうだったではないか。

意気揚々と宿に戻ると、20年間も西表島に通っているという貝殻コレクターの方がいらっしゃった。ご自慢のコレクションを見せてもらったり、最後には大きなタルダカラを頂いたりした。
哀愁漂うウェダー(金城旅館の屋上より)


4日目
中だるみ。朝食後もう一度横になってしまった。目的地に着いたのはもう昼前。
今日は、前回の西表島遠征の時にも行った林道へと向かった。
林道脇の水たまりから、リュウキュウオオイチモンジシマゲンゴロウ。やはりかっこいいなあ。湿地では、ミナミチビゲンゴロウやサビモンマルチビゲンゴロウ、ヤギマルケシゲンゴロウにオオマルケシゲンゴロウ。
左:リュウキュウオオイチモンジシマゲンゴロウ、右:ミナミツブゲンゴロウ

続いて沢を登って行く。ここで右足に続いて左足底のフェルトもはがれた。まだ4日目だぞ。。石ころがいちいち足つぼを刺激する。

ものすごいスピードで肉眼では残像しか見えないアシブトカタビロアメンボの群れ。よくこんなスピードで密集していてぶつからないのなと何枚か撮影していると、なんだ、思い切りぶつかっていた。
アシブトカタビロアメンボ

奥へ進んで行くと、岩盤の染み出しを発見。これこれ、これを探していたのだ。
ハンドライトで注意深く岩盤を見ていると、いた!
キベリオオツヤヒラタガムシ

岩盤の足元には、小さな細流ができている。そこには、でかいカスリに混じって国宝タカラナガレカタビロアメンボがいた。何度見てもきれいだ。
小さなウエノチビケシゲンゴロウまで泳いでいる。岩盤の染み出しの多様性はすごいな。
食事中のでかいカスリ長翅型とそれを横取りしようとする幼虫の微笑ましい写真。
ウエノチビケシゲンゴロウ

15時ごろ、林道を後にし、上原にある貝細工のお店に入った。ここは、昨晩の貝殻コレクターの方に教えてもらい、気になっていたので寄ってみた。貝殻でできたイタチザメのブローチを1500円で購入した。お昼はデンサー食堂に立ち寄り、ゴーヤチャンプル定食を食べた。
近くに無人パイナップル販売があるとのことだったので行ってみることに。100円で冷凍のあま〜いピーチパイン棒を食べた。

次の狙いは、2013年に西表島から発見されたコブオニガムシ。これがどうしても採りたかった。
事前に教えていただいた池に行ってみると、驚いたことに水が完全に干からびていて、池だったであろう空間にジャンボタニシの殻だけがゴロゴロと無数に転がっている異様な光景が広がっていた。これはきびしいな。とりあえず、もともと水際であったと思われる土を掘り返したり、枯れ草をめくったりしていると、セマルガムシやタマガムシ、カスリケシカタビロアメンボ、そして2019年にS氏によって記載された微小クモも無限にいたが、肝心のオニガムシがいない。無念。こればかりはどうしようもない。

宿への帰り道、教えてもらった水たまりへ。水田の脇にあるなんでもないただのコンクリートの水たまりだった。遠目からアマミアメンボが泳いでいるのが見えた。近づくと、大きめのケシカタビロアメンボが群がっていた。これだ、これだ。うわっすごいなんだこのペラペラの雄とでっぷりしたメスは!この体サイズ差は何かありそう。
ウスイロケシカタビロアメンボのペア

夕食を終え、早々に就寝。


5日目
今日は、星砂荘へ移動する。
いつも通り朝食を済ませ、チェックアウトしようとしたところで、女将さんが近くの池を案内してくれるという。どうやら地図には載っていない、地元の方だけが知る池らしい。
車で先導してもらい、池に到着。
「おぉ、これは良い池です!」網を入れなくとも良い池だとわかる良い池。
網を入れてみると、やはり!コマルケシゲンゴロウやホソゴマフガムシなどが入る。ヒメガムシに混じってミナミヒメガムシもいた。まず昆虫の個体数が多い。
何度か網を入れていると、網の中で刺激的な黒と黄色がバチっと映った。うおおおお、オキナワスジゲンゴロウ!!どこかで採りたいと思っていたが、まさかここで出会えるとは!これはめちゃくちゃかっこいい。人気が高いのも納得だ。
オキナワスジゲンゴロウ

この池には、さらにトビイロゲンゴロウやコガタガムシなどもいた。本当に良い池だった。
もし水生昆虫に生まれ変わるならこんな池に棲みたいと思うほどだった。
女将さんには感謝してもしきれない。

星砂荘へ向かう途中、あの因縁のサンゴ礁に3戦目を挑んだ。
今回は干潮より少しだけ前の時刻に到着し、じっくり探した。探し続けた。しかしやはり三大サンゴ半翅類は見つからない。粘り強く岩礁に張り付いていると、3回目の遭遇!ババチビドロムシだ。もう絶対に逃がさんぞ。視線を移さず、まばたきもせず、そっとカメラに手をのばし、ついにその姿を写真におさめた。よし、次に採集だ。指で岩に押し付けそのままつまみ取る作戦を実行した。また飛び跳ねかけたが、キャッチし(ファインプレー)、容器の中にしまった。ついにやった。もうサンゴ半翅類はいい、ババチビドロムシが採れたのだから。そう自分に言い聞かせてサンゴ礁を去った。記録については準備中。

お昼は貝殻コレクターの方にオススメされた美美(びび)というお店に行った。トロトロ軟骨ソーキそばが西表一おいしいらしい。本当においしかった。西表島に来たらここに行くと良いです。私もおすすめです。
トロトロ 軟骨ソーキそば

明日はもう石垣島へ移動なので、レンタカーを返却し、星砂荘にチェックインした。
廊下は少し軋むが、部屋はきれいで快適だ。なにより1泊2000円という破格の安さ。夕食を食べに行こうと、共有スペースを通った時、「もつ鍋たべるかー?」と声をかけられた。
数人が鍋を囲んでいてこちらを見ていた。一人でそこに飛び込む勇気はなかったので、断ろうとした。
「今日しか食べれないよ!タダだよ!」それを聞いて躊躇いながらも加わった。
そこにはとにかく色んな人がいた。脱サラして西表島に住んでいる兄さんや西表島で馬を使って田んぼを耕しながらバンドをしている兄さん、昔に鹿児島から姫路までを制圧した元暴◯族で今はもつ鍋専門店を経営しているという通称"おやっさん"、そしておやっさんの釣り仲間の兄さんがいた。
とんでもないところに入ってしまった、と思ったが、気づくとおやっさんの波乱万丈な人生談と止まらない武勇伝に笑い疲れ、2時間は経っていた。水生昆虫を採集しに来ていることや大学で研究していることなどを話すと、興味深く聞いてくれ、よく理解してくれた。そしてすっかりお友達になった。すぐ近くでヤエヤマボタルが見れるよと連れて行ってもらった。
濃い〜夜となった。


6日目
今日は石垣島へ移動する日。
朝ごはん中のおやっさんに別れを告げ、また会おうと約束し、星砂荘を出た。
上原港発のフェリーが欠航したので大原までバスで送迎してもらった。車窓からカンムリワシの幼鳥が見えた。
石垣港に到着後、すぐにレンタカーを借りて、まぐろ丼を食べ、目星をつけていた沼へと向かった。チャマダラチビゲンゴロウやコケシゲンゴロウ、ミナミツブゲンゴロウに、マダラアシミズカマキリが採れた。
左:チャマダラチビゲンゴロウ、右:コケシゲンゴロウ

薄暗い水たまりにはタイワンマツモムシもいた。
タイワンマツモムシ。ごつい。

続いて、前回の石垣島で同行した後輩がコウトウコガシラミズムシやヒメフチトリゲンゴロウを採っていた池へと向かった。私はホソミセスジアメンボに必死で採れなかったのである。
これまたきつい藪漕ぎをしてようやく記憶に残っていた景色にたどり着いた。何度も何度も網を入れていると、その時が訪れた。でっっかい!ゲンゴロウ。
個体数の減少が著しく、いくつかの島では条例で採集禁止となってしまっているヒメフチトリゲンゴロウ。これはすげーや。
岸際に座りこみ、何も考えず、ヒメフチを見るだけの時間が過ぎていった。
圧巻のヒメフチトリゲンゴロウ

満足げな顔でビジネスホテルへと帰り、コンビニで納豆巻きやおにぎりを買って夕食とした。
明日はついに与那国島だ。


7日目
悪天候のため、フェリーよなくに欠航。
慌てて飛行機を予約しようとしたが、もう遅かった。午前中の便は予約が埋まっており、仕方なく夕方の便を予約した。
さて、夕方までの時間が空いてしまった。チェックアウト時刻も迫っていたため、頭フル回転でその日の予定を立てた。急いで空港近くのレンタカーを手配し、空港へ。レンタカーを借りて、沢に行くことにした。石垣島の流水域は初めてだ。
沢に到着し、登って行くと、ここにもまたでかいカスリがよどみに多数いた。砂利をかき混ぜるとダルマガムシが浮いてきた。いつもの流れだ。タカラナガレカタビロアメンボも時々見つかった。
ダルマガムシsp.(後日同定します)

さらに上流へ登っていくためにリポビタンDを飲み干し、疲労回復・栄養補給をした。

上流へ登って行くと、やはりでかいカスリとタカラナガレがよどみにいる。しかし、ここで見慣れない体型のナガレカタビロアメンボがいるではないか。撮影して拡大してもやはりなんか変。赤くないからタカラナガレではないな、ヒラシマかなとモヤっとしたまま、いくつか採集しておいた。よくわからなかったので、現地ではリポビタンDに因んでPseudovelia ripobitanusと呼ぶことにした。このripobitanusこそ、のちに正体が明かされるやばいアメンボだったのである。これについては近いうちに論文として発表していきたい。

あまりゆっくりしている時間もなく空港へと向かった。
与那国行きの飛行機は、離陸はするけど強風で着陸ができないかもと言われつつ、なんとか18:30に与那国島に降り立った。

与那国島では、ゲストハウスフィエスタに4泊することになっていた。
送迎してもらい、宿に着くなり、「今からクエ鍋するけど、どう?」
ク、クエ!? 水族館で見たことがある高級魚。参加させてもらうことにした。
その日に釣ってきたというクエが刺身に、なめろうに、鍋になっていた。どれも絶品だった。〆グルクンも美味い。クエ鍋の雑炊でしめた。
ここで鍋を囲んだ人たちともお友達になった。いろんなバックグラウンドの人たちがいた。東南アジアを回る人、ふらっと遊びに来た人、オンライン授業をあえて与那国で受ける人、ダイビングをしに来た人、アメンボを採りに来た人 etc. 
深夜まで話した。


8日目
朝、出発のとき、オーナーに何採りにいくんだ?と聞かれた。
湿った岩盤に張り付いているような小さい昆虫です。と答えると、は?という顔をしながらも3ヶ所も思い当たる岩盤の場所を教えてくれた。
与那国ホンダで原付を借りにいくと、おそらくたも網を見て「ゲンゴロウか?ヒメフチか?最近もう採れねーよ?」と言われた。「ヒメフチも採れたら嬉しいですけど、ナカジマツブゲンゴロウです」「聞いたことないな、はっはっ」
ナカジマツブゲンゴロウとは、2005年に記載された与那国島にしか生息していない小さなゲンゴロウだ。今回の目標種の一つである。

早速原付で教えてもらった1つ目の岩盤へと向かう。道路には大きなフンがゴロゴロと転がっている。なんのフンだろ。原付で進んでいくとすぐにフンの正体が見つかった。与那国馬という在来の馬が牧場近くでは道路を普通に歩いている。
おとなしい性格の与那国馬

途中、程よい池があったので入ってみることに。
トビイロゲンゴロウがたくさんとウスイロシマゲンゴロウ、マメガムシ、カスリケシカタビロアメンボなどがいた。
いけない、岩盤だ岩盤だ。なぜ私がこんなにも水の滴る岩盤を欲しているかというと、与那国島には知る人ぞ知るヨナグニシジミガムシというかわいいガムシが生息しているのだ。本ブログの「しみじみ牙蟲」もその大好きなシジミガムシの仲間に因んで名付けられている。
オーナーに教えてもらった岩盤は、林道から外れ、沢を下っていくと鍾乳洞としてあるらしい。林道を下っていくと、目の前にぱっと広がる神聖な雰囲気の水たまりがあった。
!!!!!
大きなアメンボが泳いでいるではないか!そして赤い!!!
日本では与那国島にしか生息していないトゲアシアメンボだ。もちろん目標種の一つだったが、こんなにすぐ見つかるとは!
感動のトゲアシアメンボ

メスよりオスが非常に大きく、脚を広げると手のひらほどのサイズ感だ。息を整えてから網を振った。捕まえるのは難しくないが、このトゲアシアメンボ、よく飛ぶのだ。
ぶぉぉぉおおおおん。そんな効果音が頭に流れるほど迫力のある羽ばたきで網から飛び去っていく。トゲアシアメンボと戯れていると、なにやら銀色に光を反射して動いている。タイワンマツモムシかな。。。。いやちがう、水中ではなく水面だ!
水面+銀色+でかい...あぁっっ!このときすべてを理解した。
日本産ミズスマシ科最大種タイワンオオミズスマシだ。これも国内では与那国島にしか生息していない。
でかい・太い・メカニック。タイワンオオミズスマシ

トゲアシアメンボとタイワンオオミズスマシのいきなりの登場に心拍数が上がっている。
さらに先へと進んでいくと、流れの緩やかな沢になってきた。水面が木漏れ日を反射してキラキラしている。トゲアシアメンボも大きなストロークで泳いでいる。
ダルマガムシでも浮いてこないかなと、岸際をかき混ぜてみたが浮いてこなかった。ふと隣に、いかにもひっくり返してほしそうにしている岩があったのでひっくり返すと、ヒラタガムシ系のシルエットが浮かび上がってきた。つまみ上げ、背面を見て震えた。喉の奥のほうから声が漏れた。ヨ、ヨナグニスジヒラター!!
歓喜のヨナグニスジヒラタガムシ

正直採れないのではと思っていた目標種があっけなく採れてしまった。こんなペースで出てこられては精神がもたない。
一旦、気を沈め、他の石もひっくり返しまくったが、追加は得られなかった。
さらに進んでいくと、オオゴマダラが飛び交う先に水の滴る岩盤を発見。ここか。しかし、ヨナグニシジミガムシの姿はない。そしてここでもまたでかいカスリケシカタビロアメンボがたくさんいた。少なくとも八重山諸島には広く分布しているらしい。

お昼は、さとやというお店の八重山そばを食べた。ここの八重山そばも絶品だった。また行きたい。
午後は水田地帯で止水性種を採ることにした。時期的に水田にはほとんど水がなくなっており、くぼみにできた小さな水たまりや水路でガサガサした。ここでもルイスヒラタガムシやチビヒラタガムシ、コケシゲンゴロウなどが採れた。少数だが、チャマダラチビゲンゴロウやアンピンチビゲンゴロウも採集できた。
アンピンチビゲンゴロウ

多数のカスリに混ざってホルバートケシカタビロアメンボもいたが、体型が本土で見るのとは違う。完全に台湾で見たタイプの体型だった。与那国島は日本最西端の島。最も近い島が台湾なのだから、そんなこともあるだろう。後日、ホルバートケシカタビロアメンボの与那国島初記録として報告した。

次に、地形図を読み、地図には載っていない沢を探すことに。これは以前、M氏と一緒にチャイロケシカタビロアメンボを探しに行った時に、彼がやっていた技。それで本当に沢があるのだから、すごい。かっこよかったので真似してみたのだ。
ここを降りていけば沢があるはずだ、と林道から外れ、降りていくと、たしかに水がたまっていた。水量は少ないがたしかに沢の痕跡のような水たまりがあった。やってみるものだなと優越感に浸っていると、1mほど先でカサカサと音がした。音のしたほうに目をやると、黄色い体に鋭い目つきの巨大なヘビが草陰からこちらを睨んでいた。
ヨナグニシュウダだ。びびりはしたが、見れたのはラッキーだ。
逃げていくヨナグニシュウダ

結局、沢らしい沢にはなっておらず、この日は早めに宿に戻った。
実は本遠征から帰って2日後に修論の中間発表をひかえていたので、その準備をしなければならなかった。
クエ鍋をともに食べたお友達と話しながら、夕食はインスタントの中華丼を食べた。

9日目
この日動けるのは午前中のみ、午後は発表の準備をする必要があった。
昨日成功した沢を見つけ出す方法で、別のポイントに行ってみた。道無き道を草をかき分けて進んでいく。かなりハードな藪漕ぎだ。20~30分は草の中でもがいたのではないだろうか。ようやく抜け出すと、あった!沢があった!!
ミナミイシガメが驚いてばたばたと逃げて行った。

ここでもトゲアシアメンボはたくさんいて、タイワンオオミズスマシも悠々と泳いでいる。
狙いは、ナカジマツブゲンゴロウだ。岸際をガサガサし続けるも、何も入らないまま15分くらい経過した時だった。ツブゲンゴロウ属の幼虫が入った。こんな環境にいるツブゲンなんてナカジマに違いない。たしかにここにいるんだな。粘り強く探していると、予想外のエサキタイコウチが入った。これまた国内では与那国島にしか生息していない種だ。こんな環境にいるのか。
今度は岩の隙間を狙って網を入れてみると、ヨナグニスジヒラタガムシがぽろぽろと採れた。同時にダルマガムシsp.も採れた。ヨナグニダルマガムシかも。
左:エサキタイコウチ、右:ヨナグニダルマガムシ

それでもナカジマツブは採れない。
少し場所を変えて、草の陰になっているところに網を入れてみた。するとこれまで全く採れなかったナカジマツブが一気に3個体も網に入った。この環境なのか!もう一度網を入れると1個体、さらに入れるとまた3個体入った。
与那国島が誇る美麗種ナカジマツブゲンゴロウ

帰り、また辛い藪漕ぎをしてようやく林道まで戻ると、すぐ出たところにもう一つ沢が見えた。だめだ、見てはいけない。せっかくのしんどかった藪漕ぎを無駄にしないためにも見なかったことにした。


こうして残る目標種は、ヨナグニシジミガムシだけとなった。

昼食はてんだ花でタコライスをいただき、午後は発表準備に勤しんだ。
夜、クエ鍋のお友達と談笑していた。
皆さん私のアメンボトークをよく聞いてくださり、ウミアメンボやサンゴアメンボ、ケシカタビロアメンボにも興味をもって質問してくださった。
私は、石垣島の沢で出会った謎のカタビロアメンボ ripobitanusの話をした。すると、東南アジアを回る人として最初に紹介した、通称たむさんが、明日から石垣行くから俺採ってくるよ!と言った。
それは私としても大変ありがたいし、たむさんもノリノリであった。ポイントへのアクセスや生息環境、サイズ感、採集方法、伝えられることは全て伝え、たむさんに託した。
味噌のカップラーメンを食べて寝た。


10日目
もうやることは一つしかない。岩盤にすむヨナグニシジミガムシを探すのみ。
オーナーに教えてもらったもう1カ所の岩盤に行ってみることにした。
比較的すぐにそれらしい環境は見つかった。水が染み出し、岩盤を滴っている。結構探したが姿がない。
ダルマガムシsp.が1個体だけ見つかった。
先へと進んで行ったが、水が染み出している箇所も多くはなく、オーナーに教えてもらったもう1カ所の岩盤ポイントにかけるしかないかと、来た道を戻っていた。途中、行きはスルーした、さすがにこれはちがうよなーという染み出しとも言いにくい岩盤にライトを当ててみた。
・・・・・えっ、こ。。。
シジミガムシがくぼみに体をうずめて潜んでいた。こみ上げる喜びを抑えきれず、ひとりガッツポーズ。
この美しさやかわいさはいちいち説明するほうがナンセンスだ。
こうした固有の生物種を育んできた、島の成り立ちや歴史を肌でぐっと感じた瞬間だった。
至高のヨナグニシジミガムシ

不思議な気持ちになりながら、原付に戻ると、シートに鳥のフンがされていた。
ムッとしかけて思った。別に良いのだ、私にはヨナグニシジミガムシがいるのだから。
ティッシュでさっと拭き、宿へと戻った。
宿への帰路で、右手の人差し指に違和感を覚えた。右ハンドルにもフンがされていて、指にフンがついていた。でもそんなことどうだって良いのだ、だってヨナグニシジミガムシがいるのだから。宿に到着して、よく手を洗った。

お昼は海人食堂に行き、魚フライカレー定食を食べた。シイラの炙りが刺身として付いてきた。魚フライの魚が何か聞きそびれてしまったが、ふわふわでおいしかった。

昼食後、日本最西端之地に記念撮影しに行った。
清々しい

それから、南牧場近くの湿原へと向かった。
期待して行ったのだが、チビヒラタガムシとルイスヒラタガムシばかりで他に全然採れなかった。
せっかくなので観光名所の立神岩や軍艦岩にも行った。
写真では伝わりづらいが、ものすごい迫力の岩だった。
左:立神岩、右:軍艦岩

比川集落で地元のおばあちゃんと10分ほど小話をしたあと、せっかくなのでDr. コトー診療所にも行った。

そろそろ採集に戻ろうと、調子に乗ってまた沢探しをやってみたが、今度は失敗し、結局下流のほうへと移動した。川に入ろうとしたとき、どでかい魚影が目に入った。オオウナギだ。
恐ろしいほど大きかったオオウナギ

一応狙いはタイワンコガシラミズムシという激レア種だったが、見つかることはなく宿に戻った。
夕食は皆さんが買ったり作ってくれたりした、ラフティという煮豚?や芋からつくられるクバ餅、フライドポテトやカボチャの素揚げを食べた。
その後、クエ鍋のお友達と花火をして屋上で満天の星空を見るという採集遠征らしからぬこともして楽しんだ。
こうして与那国島で過ごす最後の夜は過ぎていった。


11日目
朝、空港までオーナーに送迎してもらい、与那国島を発った。
石垣空港に到着し、すぐに飛行機を乗り継いで成田空港まで帰ってきた。
家に帰るまでのバスの中、石垣島のたむさんから動画が送られてきていた。動画にはタイワンシマアメンボとアシブトカタビロアメンボとでかいカスリらしきのが写っていた。早速行ってくれて、本当にアメンボを採ってくれていた。
そのでかいカスリくらいのサイズです!と伝えると、明日またチャレンジしてみる!と。

こうして長かった11日間の八重山遠征は幕を閉じた。
三大サンゴ半翅類やオニガムシなど、悔しい戦いもあったが、目標にしていた種の大半を採ることができ、これまでの集大成とも言える大満足の旅となった。案内してくださったり、ポイントを教えてくださった先生方に御礼申し上げたい。
そして刺激的な人たちとの出会いも、一人旅ならではの大きな収穫となった。




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