2020/05/20

啓蟄の台湾

3月初旬 

-春立ちて一雨ごとに暖かさ増す5日間の台湾遠征記


1日目

これは、やどけんの卒業旅行として企画されるも参加者わずか5人、大半を別行動で過ごすというやどけんらしさ溢れる遠征の記録。人生初の海外だったので、パスポートを発行したり、ボロスマホを新調したりしてわくわく70%ドキドキ30%で出発した。

うっかりミスにより空港の荷物検査で安物のピンセットを没収されたくらいで、他は順調に進み、午前10時ごろ離陸、夕方ごろ桃園のホテル到着。

台湾の街並みを少し散策したのち、激安そうなお店に入った。
もちろんメニューは全部中国語なので頼んでからのおたのしみ。
”葱爆牛肉飯”というのを注文してみた。ほう、ネギ入り牛丼ですね。

1日目は移動で終了。明日からが本番です。


2日目
天気は雨。
早くもやどけんメンバーとはここで一旦お別れ。
2日目と3日目は、台湾のゲンゴロウ屋さんLiu氏に案内してもらうことになっていた。
集合までの道のり、一人で電車やバスに乗っていると、まったく未知の世界に飛び込んでしまったようでこれがたまらなく楽しい。
Liuと合流する予定のバスに乗ると、車内は貸切で運転手さんが笑顔で何か言っているがちんぷんかんぷん。しばらくバスに揺られていると、Liuが乗ってきた。早速、標本交換を済ませ、互いの研究やお気に入りの水生昆虫などについて会話を交わした。英語が上手だ。
目的地に到着し、Liuについていくとどこにでもありそうな崖面で立ち止まった。雨のせいでわからなかったが、おそらく常に水がしみ出している岩盤なのだろう。
そしてどうやらここにガムシがいるという。
近づいて窪みを入念にのぞいたり、植物をめくってみたりしていると...いたいた!!


Komarek & Hebauer (2018)を参考に上翅の点刻列を数えると、おそらくAgraphydrus decipiensかな。
かなり小さいため、指でつまむのは至難の技。細い木の枝や葉っぱを使ってすくい出すようにとっていく。Liuは手馴れたものでピンセットでつまみ出していく。こんな風にガサガサしない水生昆虫採集もとっても楽しいのです。
窪みからガムシをすくい出そうとしている青坊主

この岩盤にはもう1種、これより大きな湿岩性ガムシがいた。
むむっ黒くて丸い。これはセマルガムシの仲間か?
Liuに尋ねたが「Not Coelostoma.」と。
...ちがうのか。なんだこれは。

写真を撮ってみて、声が漏れた。これは、やばすぎる。。。エメラルドじゃないですか。
特殊な環境にひっそりと、そして黒くて丸くて地味だが、そこに美しさや渋さがにじみ出ている、そんな虫が一番好き。だからガムシは魅力的なのだが、これはこれまで出会ってきた数々のガムシの中でも群を抜いてどタイプである。
もう何度見返しても最高である。

これはOocyclusという日本には生息していない属の一種であることがわかった。

その後も林道脇の水たまりにはキベリヒラタガムシの台湾バージョンのようなEnochrus sauteriLacconectus basalisがいた。ビジターセンターっぽいところのプールにはオオアメンボが悠々と泳いでいた。
台湾固有種 Enochrus sauteri

美しい模様のLacconectus basalis

お昼も過ぎ、街へ移動するためバスに乗ると、行きと同じ運転手さん。ここに来るバスを運転するのはこの方だけなのかな。街に到着し、バスを降りるとき車内に傘を忘れてしまったらしい。お昼は「客家湯粄條」というのを頼んでみた。
日本でいうきしめんをもっとモチモチさせたような食感で、あっさり塩味でうまし。
奥のは外側が黒いゆでたまごと昆布のようなもの、独特な味付けでくせになった。
食後は、里山へと向かった。水路にはコセアカアメンボ、水たまりにはヒメアメンボが泳いでいる。
奥へと進むと、林に囲まれた植物の茂った湿地に着いた。これはなんかいっぱい採れそう。Liuによると大型種もいるらしいので張り切って網を振るった。
ツヤコツブゲンゴロウ似の種やサビモンマルチビゲンゴロウ似の種、ウスイロシマゲンゴロウ、オオマルケシゲンゴロウ、チュウガタマルケシゲンゴロウ、トビイロゲンゴロウなどが入る。クロヒラタガムシ、アカヒラタガムシ、Helochares sauteriなども採れた。
Helochares sauteri

帰り際、Liuがそこにもガムシがいるよと言った。見てみると、湿地のそばにバナナの木が生えていて、いくつか実が地面に落ちている。えっ?陸生ガムシ?すっかり真っ黒になったバナナの皮をめくってみると、おお!いた!
腐ったバナナ


バナナの皮の裏を歩く陸生ガムシ

本日の採集はここまで。ホテルに戻り、ふらっと近くの街を散策した。
傘をなくしてしまったのでFeitaiという中国のメーカーの防水ズボンを買い、夜ごはんは散々迷った結果、マクドナルドでハンバーガーを食べた。


3日目
昨日と同様、バスと電車を乗り継ぎ、いつものあの運転手さんのバスに乗ると、顔を覚えていてくれたようで元気に挨拶してくれた。そして昨日忘れてしまった傘を差し出してくれた。谢谢谢谢。Liuと合流し、午前中は昨日はじめに行った場所に再度行った。昨日は行けなかったルートや林内の奥のほうに向かった。
林内の細流には、ウエノチビケシゲンゴロウが多数泳いでおり、林内の岩盤にもAgraphydrus decipiensOocyclusがたくさんいた。
ウエノチビケシゲンゴロウ

Oocyclusが美しくて岩盤から離れられない黒坊主。

植物をかき分けて細流をたどって行くと、小さな小さな窪みにできた水たまりにケシカタビロアメンボがいた。これまたやばい雰囲気を感じるケシカタビロで、ウエノケシっぽいがウエノではないMicrovelia sp.であった。

ここを後にし、お昼ご飯へ。本日はこちら「牛湯包飯」。
牛肉のスープにごはんをぶちこんだという感じ。これ美味しい。
そしてどうやらこの毎回なにかとついてくるゆで卵と昆布のセット。
台湾では定番なのかな。今回はそこに豚の耳も加わった。

午後はタクシーに乗って大きめの河川へと向かった。
なつかしさを感じる川

コンクリート上にできた小さな水たまりにはチビミズムシ属sp.が無限に湧いていた。
この種に関しては同定を試みたが、各種の外見や情報がなかなか集まらずできなかった。せめてその爪痕だけでも残そうと台湾産チビミズムシ属リストとしてこちらのコラムになっています。

ここでは岸辺で砂利をかき混ぜたり岩を裏返したりすることに専念した。
浮いてきたのはシジミガムシ属sp.とツヤヒラタガムシ属sp.。ツヤヒラタガムシ属は日本でもこれまで何度かチャレンジしているが、採れたことがなかったの大変うれしかった。
タイワンミジンダルマガムシも確かにこの目で見たのだが、見失ってしまった。
シジミガムシ属の一種


ツヤヒラタガムシ属sp.



さらに岩を裏返していると、きましたきましたセマルガムシです。これまた日本の種とは明らかに体型が違う。前胸が張り出していて、体高があるためゴツい印象を受ける。
これはCoelostoma wuiという種で、Liu et al. (2020)によって台湾から記録されました。さすがです。
歩き回るCoelostoma wui

さらにさらに岩を裏返していると、ナガレカタビロアメンボ属sp.が出てきた。
こちらはまだ同定できておりません...。
ナガレカタビロアメンボ属sp. 左がメスで右がオス

ナガレカタビロアメンボを黙々と摘んでいると、なんか今変なのいた。しっかり見たいのに、採りたいのに、動きが俊敏な上に頻繁に飛翔する。ようやく捕獲して見てみると、なんだこれは。。。
どう見てもこれはとんでもない。特に翅の水色。明らかに日本にはいないやつ。
色々調べていくとケシミズカメムシ科のTimasius属の一種であることがわかった。台湾でTimasiusは5種記録されているが、種までは落とせていない。それにしてもケシミズカメムシ科にこんな体サイズの大きなグループがあったとは知りませんでした。同時に、比較的見慣れた感じのコバネケシミズカメムシに似た種もいた。
Timasius sp. 1
Timasius sp. 2
一緒にみられたコバネケシミズカメムシに似た種

この川、岸際がアツすぎる。Liuにそろそろ帰ろうと言われたが、ちょっと駄々をこねて粘った。
帰り際、野犬にめちゃくちゃ吠えられた。目を合わせてはいけないと言われ、背中を向けてびくびくしながら立ち去った。
ひ〜こわい顔

この日の夜は、久しぶりにクワガタ屋以外のやどけんメンバーと合流し、夜市で食べ歩きをするというイベントの予定。バスを降りて、集合場所であるホテルへ歩いて向かう途中、ここでまた傘をなくしてしまった。せっかく運転手さんが持っててくれたのに。もうそれっきり戻っては来なかった。
さて、みんなと合流して夜市に出陣。街はまるで学園祭のように屋台が並び、人で溢れ、盛り上がっていた。
色々食べ歩きした中で一番おいしかったのがこれ。
表現が難しいが、言うなれば中が空洞のあったかいじゃがいも。おすすめです。

その後も職人っぽい男性3人が並んで目の前でチャーハンを炒めてくれるお店でチャーハンを買い、スーパーで台湾ビールを買ってホテルに戻り、みんなと談笑しながら楽しい夜を過ごした。


4日目
うすうす感じていたのだが、台湾に来てからまったく野菜を摂れていない。ちょっと入っているネギやもやしくらい。
出発前に寄ったコンビニでビタミンいっぱいそうなジュースを買っておいた。

この日は合流したメンバーで山間の水田やため池のあるところにタクシーで向かった。
目的地に到着後、水辺班として単独行動になった。やどけん恒例、現地解散というやつ。
水田にはやや体型に違和感があるが、ホルバートケシカタビロアメンボだろうか。
それからカスリケシカタビロアメンボっぽいのもいた。
左:ホルバート?、右:カスリ?

そのほかチビマルガムシやルイスヒラタガムシ、トゲバゴマフガムシなども採れる中、少し変わったツブゲンゴロウ属sp.が網に入った。
上翅に模様がなく、細く小型だ。さらにアンピンチビゲンゴロウもいた。
ツブゲンゴロウ属sp.
アンピンチビゲンゴロウ

続いて水際の湿った泥の上を攻めていると、やはり!
期待に応えて浮いてきてくれるのがセマルガムシ氏。こちらは未同定です。
セマルガムシに混じってなにやら小さいのも浮いて来た。これは予想外のセスジダルマガムシ氏!こんな止水域で見つかるとは。
丸くてかわいいセマルガムシ氏


泥の窪みに体をうずめていたセスジダルマガムシ氏

気がつくとずいぶん時間が経っていたようで、疲れも出てきたので、少し早いがみんなとの待ち合わせ場所で集合時間までじっとしていることに。

ウェダーを履いたままベンチに腰掛け、ぼーっとしていると、突然おじさんに話しかけられた。もちろん全く理解できず、右手にはウイスキーの瓶、怒り口調である。近くにいた人やウイスキーおじさんの知り合いらしき人たちも4〜5人集まって来た。これはピンチ。しかも英語は通じないし、Google翻訳を使って説明してもなかなかわかってもらえない。
するとおじさんは近くの商店に入って行った。ちょいと覗くと、新しいウイスキーを買っている。うわこれはまずいぞと思っていると、おじさんが店から出てきてこちらに近づいいて来ると、僕に緑茶を渡した。再びGoogle翻訳を使ってみると、「お前、金はあるのか、おなか空いてないか」と聞いていたのだった。どうやら、こんな山奥に外国人が迷い込んでしまって街に帰ることもできず、途方に暮れていると勘違いされたらしい。ウイスキーおじさんの優しさにハッとし、何度も感謝を伝え、事情を説明した。しかもこの緑茶よく見ると、日本語がちらほら書いてあるし、日本人だから日本のお茶を選んでくれたのかもしれない。こころしみる。

そんなこんなでみんなと合流し、ホテルへと向かった。昨晩のチャーハンがあまりに美味しかったので、またあの3人の男性が並んでチャーハンを炒めているお店へ。そしてまたスーパーで台湾ビールと多様なフルーツも買って談笑した。


5日目
 早いもので今日はもう日本に帰る日だが、飛行機は深夜の便なので日中だけ活動した。
僕はもう3回目になるが、あのどタイプのガムシがいるところにみんなと向かった。もうバスの運転手さんとも朋友である。
そしてやっぱり何度見ても最高なので、もう一度眺めておこう。んーすばらしい。

せっかくなのでまだ行ってなかった奥のほうへと林道を進んでみた。黒い野犬にしばらく後をつけられたりしながら登っていったが、まだ見ぬ水生昆虫には出会えない。
林道脇に小さな流れ込みがあったので、金魚ネットでガサガサしていると、網ではなく手の甲になんかついていた、しがみついている!それがこちら。ワインレッドに金の縁取り、美しい。
ウエノツヤヒメドロムシ属sp.

 その後は特に成果はあげられず、空港方面へと向かった。
ここで数日ぶりとなるクワガタ屋とも合流した。
台湾最後の夜ごはんは、ちまたでうわさらしい小籠包のお店に行った。大好物の杏仁豆腐も。高そうに見えるが、もとの物価が安いのでそれほどでもなかった。


こうして5日間に渡る台湾遠征を終え、こんな水域にもいるんだとか、日本の種と違ってこんな色や形のがいるんだとか、ありきたりですが強く感じたことでした。

なにより2日間案内してくれ、たくさんのことを教えてくれた心優しいLiuに感謝。そしてなにかとお世話になったバスの運転手さん、感動を与えてくれたウイスキーおじさん。実は登場してこなかったが、コインランドリーの使い方を優しく教えてくれた英語ペラペラ兄ちゃん、駅の入り口まで連れていってくれたOLさん、バス停の場所を教えてくれた仲良し親子、降りる駅を教えてくれた女子大生、網を入れるための段ボールを一緒に作ってくれたおっちゃん。
本当に色々な方々に助けてもらいながらの冒険でした。
思い出に浸りながら撮った、深夜2:26 飛行機から見えた台湾の夜景。


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