2020/01/14

浅春の大東

3月初旬 

-早春の息吹身に染む一週間の大東遠征記


1日目

本遠征は、1日目に移動、3日間の北大東島、3日間の南大東島、8日目も移動という流れである。
メンバーは、やどけん有志で集まったクワガタ屋とゴミムシ屋との3人。コウガイビル屋は来れなくなってしまった。
成田空港を出発し、昼過ぎに那覇空港に到着。港に移動し、北大東島行きの船「だいとう」を待つ。。。
夕方に出航し、17時間にわたる超ロング船旅が始まった。
いざ、大海原へ

事前準備を怠ったため、食料は船内の自動販売機のカップラーメンのみ。
しかも使えるのは100円玉だけで、不運なことに私もクワガタ屋も100円玉を切らしていた。奇跡的にゴミムシ屋の財布に100円玉が3枚あって一命をとりとめた。
皆でカップラーメンをすすった思い出。

船内を探検したり、大東諸島の解説パネルを見たりなんかしてるうちに夜になり、シャワーを浴びて就寝準備。
船内のテレビでアニメメジャーがやっていたのでちょっと夜更かし。


2日目
目覚めるとまだ薄暗かったが、甲板に出て待機し、日の出を見た。
船上で日の出を見るという誰しも一度はやってみたいやつ

右に少し見えているのが北大東島。船内に戻ると、まだアニメメジャーが続いているので視聴。
今夜は一挙放送なんだろうな。

さて、北大東島の醍醐味である上陸。
北大東島にはしっかりとした船着き場がないため、乗客はクレーンで吊るされたケージに乗り込み、上陸する。


降り立つとすぐにわかる、この島なんかこれまで行ってきた他の島とちがう感。
景色は岩壁と砂と畑、平らで、なんか遠い昔の記憶を蘇らせるような、そんな島。
お昼は大東そばをいただき、二六荘という水色の民宿に荷物おいて原付をお借りした。
紅生姜がよく合います

さて、今回の遠征の目標は、未だ見ぬアメンボ2種と水生甲虫で初記録を出すこと。それに加え、Aさんからなんでもいいからひたすら甲虫という甲虫をとってこいという重要任務も受けていた。

ここから水辺班はほぼ単独行動です。
ひとまず宿から一番近くの沼へ。ここは製糖工場の裏にある沼で、おそらく堆肥だろう。ものすごい強烈な臭い。ガサガサしてるとマグソコガネが入るほど。
慣れることのない臭いではあったが、いかんせん水生昆虫が豊富なものでなかなか立ち去れない。初見のコクロヒラタガムシも湧いている。愛してやまないセマルガムシも浮く浮く。
 左:アカヒラタガムシ、右:コクロヒラタガムシ



やっとのことで脱出し、次なる目的地へ。
今度はきれいめな岸際に植物の生えたいい感じの池。ここではサビモンマルチビゲンゴロウ、コマルケシゲンゴロウ、オオマルケシゲンゴロウ、トビイロゲンゴロウ、コガタノゲンゴロウ、オオミズスマシなどがいた。
急に大物が網に入ったと思うと、国内外来の立派なニホンスッポン。


続いて、緩やかに流れる小川に行くことにした。
川に入る前に見つけてしまった。岸際の植物の隙間をシュッシュッと抜け、消えるアメンボの影。動きが素早くてなかなか捕まえられない。はやくその前胸背をみせてくれえ、、、おっ。

やりました!目標種の一つツヤセスジアメンボです。南西諸島に広く分布するセスジアメンボに似ていますが、前胸背中央に1本の黄色い線がないことが特徴。環境省レッドリスト2017では、準絶滅危惧種に指定されています。
うわぁ、、、やったぁ、、、。オスメスともに無翅型と長翅型を採集でき、満足。

次の目的地への移動中、道の脇に薄暗い不気味な水たまりを見つけた。
岸からのぞくと、これまで見たどれとも異なるケシカタビロアメンボがたくさん歩いている。あ、これがモリモトさんか。日本固有種であり、屋我地島と北大東島、西表島、与那国島でしか分布記録のないモリモトケシカタビロアメンボ。



モリモトさんの撮影に夢中になっていたせいで気づくのが遅れたが、なんか小さいアメンボいる。セスジかツヤセスジの幼虫にしては、体つきがしっかりしているし、ひょっとして。慌てて捕まえて前胸背を確認、おおおおおおおお!!!

写真から焦りがにじみ出ていますね。前胸背の黄色い点が1個しかないのはヒメセスジアメンボです。やりました。この感動はでかい。2日目にして、目標種のアメンボが2種とも姿を現してくれました。最高です。

満足感のあまり、夕暮れの海岸へ。半日を共にした原付を夕日をバックにぱしゃり。

ついでに北大東島の歴史を感じる燐鉱石貯蔵庫跡を探索。ただただすごい。

早くもエンディングムード漂っていますが、明日もがんばります。
夜はハマユウ荘でチキンカツ定食をいただいた。


3日目
今日は一旦水辺を離れて陸生のコウチュウをとりまくる日。
慣れないビーティングやらスウィーピングやら石起こしをしまくって、採れるだけ虫を採った。
この日の成果は自身初の短報となる、松島・秋田(2019)大東諸島におけるゴミムシダマシ科4種の記録. さやばねニューシリーズ, 31: 42.として発表している。2008年にメス1個体から記載されて以来、記録のなかったダイトウスナゴミムシダマシを多数採集することができたので、オスや生息環境について報告している。

夕方、気がつくと水辺にもどっていた。
植物をかき分けて、細流の奥へ奥へと進んでいくとこんなところに出た。



ここはジャングルの中に来たような感じで、ツヤセスジアメンボとヒメセスジアメンボの楽園だった。一歩進むたびに数匹が草陰に隠れる。
撮影と観察を繰り返して、どれくらいの時間ここにいたのか。陸でがんばった反動だろうか、やたらと落ち着いている。
座り込んで、ずっとこうしていられたらなぁとぼーっと思ったのを覚えている。

そんな風にして3日目を過ごし、夜はまたハマユウ荘で今度はカツ丼を食べた。


4日目
宿を出るとき、本土では見たことのないアイスを買った。これ、おいしいのでオススメです。
どうやら沖縄県のご当地アイスのようです。

2日目に行った臭い沼といい感じの池にもう一回行くことにした。
臭い沼は、相変わらずいっぱい採れて楽しい。
いい感じの池では、なぜか2日目は採れなかったヤギマルケシゲンゴロウやナガチビゲンゴロウが採れた。
のちのち、この池で採ったマルケシゲンゴロウ3種が北大東島初記録であることがわかり、短報が出ました(Publicationsを参照)。

夜、同じ宿に泊まっていた親切な男性がダイトウオオコウモリのみられる場所に車で連れて行ってくださった。生き物好きの若者に是非見せたいと、本当に親切。
いたいた。良い写真は撮れなかったが、確かにいた。特徴的な首元の黄色がちゃんと見える。大東諸島固有で近年急激に数を減らしているのだとか。





5日目
さあ、南大東島へ移動するため、北大東空港に向けて出発。
畑に囲まれた砂地の道は、バッタが異常な数飛び交っていて顔にも体にもぶつかってくる。早めに出発したので、沖縄最東端に行って近くの岩礁を散策。

沖縄最東端之碑

北大東島から南大東島までは、日本一短いとされる約13km、所要時間15分の小型飛行機が数日に一本、出ている。その小型飛行機に乗るはずだったのだが、強風のため飛ばないという事態に陥った。
途方にくれた我々を空港のCAさんが助けてくださった。知り合いの漁師さんに電話してくださり、なんと漁師さんの個人の船で南大東島まで送ってくださるという。なんて親切な人たち。ありがとうございます、本当にありがとうございます。

そんなこんなで南大東島の港に到着すると、堤防で円になってお酒を飲んでいる漁師のおじさんたちに話しかけられた。ルートビアをいただき、円に混ぜてもらってその宴に加わった。兄ちゃん達なにしにきたんだ?昆虫を採りに来ましたと言うと、それ金になんのか?虫なんていいから早くいい女みつけろよなんて話して少し打ち解けたような。
去り際に、民宿の人と知り合いだからこれ持ってって調理してもらいな!とでっっっかいイカのプレゼント。なんだこの島、本当に驚くほど良い人たちばかりだ。

南大東島では、きらく家という民宿に宿泊した。荷物をおろし、また原付を借りて早速湿地へと向かった。
ウェダーを履くと足の裏に違和感を覚えた。木の枝かなと覗いてみると、ゾゾゾゾゾッ。
乾かしていたときに侵入したであろうオオムカデが這っていた。危機一髪。九死に一生。こわすぎ。

植物が繁茂しており、足で踏み込むと水が滲み出て微小種が浮いてきそうな、好きなタイプの湿地だ。ところが、思っていたのとちがう。南西諸島の普通種がごく稀に浮いてくるのみ。ミヤタケダルマガムシが採れたのが少し嬉しいくらい。
日が落ちてきたので今日はここまで。

夜ごはんは、お食事処 光にてゴーヤチャンプルー定食を食べた。


6日目
午前中は大東神社の池に行った。ここは1991年に日本では幻となりつつあるマダラゲンゴロウが確認された場所。
可能性は低いが、目標は高く。

マダラゲンゴロウどころか、昨日同様、南西諸島の普通種が時々網に入る程度である。チビマルガムシ、クロヒラタガムシ、チビヒラタガムシ、ルイスヒラタガムシ、タイワンセスジゲンゴロウ...。そのとき、ヒット!
1個体だけチンメルマンセスジゲンゴロウ!本種の大東諸島での記録は10年以上前の蓑島さんによる初記録以来じゃないかな。

けっこうがんばったつもりだが、マダラゲンゴロウは現れず。このとき、ガサガサ中にたまたま水面に浮いていたこのツマグロアメイロカミキリが大東諸島初記録で、月刊むしに発表しました。



大東神社を後にし、すぐ近くの川に入ってみるとそこはアマミアメンボが無数に泳いでいた。あたり一面のアマミアメンボ、圧巻の景色。
しばらく浅瀬に座ってこれを眺め、忘れまいとしっかり目に焼き付けておいた。

お昼は大東そば&大東寿司セットを食べて、午後からは陸生甲虫に切り替え。
海岸のほうまで行き、歩き回りながら、やはり慣れないビーティングや石起こしをしまくるが、虫が採れない。
噂には聞いていたが、南大東島は本当に虫が少ない。
しかもなんか雰囲気がこわい。
 

そんな中、歩いていると、おそらく日本一怖いトイレを見つけてしまった。この佇まいで、巨大ダイトウオオコウモリがカッと見開いた狂気的な目でこっちを見ている。間違いなく日本一だろう。
昼でよかった。

夜は、割烹喜作というお店へ。南大東島に行った際には、絶対に行きましょう。
ここの大東寿司は絶品です。衝撃を受ける美味しさでした。さらに、大東名物のナワキリを使ったお料理。これまたびっくりするくらい美味い。ナワキリはクロシビカマスという和名のついた深海魚らしいです。
しつこいですが、本当に絶品です。お試しあれ。



7日目
南大東島に到着したときに漁師さんからいただいたイカを宿の方が唐揚げとマヨネーズ和えにして、お昼にご馳走してくださいました。至れり尽くせりです。

午後はまず、星野洞というアジアで一番美しいとも言われる鍾乳洞を見に行った。安全に歩けるように道や手すりが設置されており、広くて見応えがあった。水たまりを見つけてはなんかいないかと探しましたが、地下性らしき生き物はいませんでした。
星野洞を探検

続いて、幻のヒサマツサイカブトの標本を見に、島まるごと館へと向かった。
道中、道に迷ったり、雨に降られたり、ぬかるみにはまったり、かなり苦労して数時間かけて着いた。無事にヒサマツサイカブトの標本を見せてもらうことができ、館内の展示もじっくり見学した。
なんかもうこの頃には、あまりの虫の採れなさと南大東島の謎めいた感じで、あろうことか普通に観光を楽しんでいた。

また数時間かけて宿に着くと、19時を過ぎていた。
南大東島、最後のごはんは、5日目にもお世話になったお食事所 光で海ぶどう丼を食べた。
疲れた体に海ぶどうが染みわたること。

夕食後、大東神社に行き、夜間散策へ。国内外来種のミヤコヒキガエルやオオヒキガエルが無数にぴょんぴょこしている。多いときには一歩につき数匹が跳ねるほど。これは相当な昆虫が餌になってるな、かなりまずい状況であることを肌で感じた。
神社に着くと、ラッキーなことにダイトウコノハズクやダイトウオオコウモリがさかんに鳴いていて、その姿まではっきりと見ることができた。
左:ダイトウコノハズク、右:ダイトウオオコウモリ



8日目
長いようで短かった8日間の遠征も今日でおしまい。帰りは南大東島から那覇まで一気に飛行機で移動。船では17時間近くかかったのに、飛行機だと1時間ちょっと。あっけないね。



ごはんが美味しくて、とにかく親切な人たちに支えられ、どこか懐かしく、それでいて謎めいた独特の雰囲気をもつ大東諸島は、とても魅力的でした。またいつか行くんだろうなとなんとなく直感しています。楽しみでもあり、少なからず不安もあります。大東諸島は、そのアクセスの悪さからあまり人が訪れず、調査も進んでいません。希少な固有種はもちろん、これからまだまだ初記録種や未記載種が出てくるであろう面白い島々です。しかし同時に、特に南大東島では殺虫剤の使用や乾燥化、外来種などの影響により、近年著しく生物相が劣化していると言われています。数年後、数十年後に北大東島含め、どういう状況になっているかわかりません。少しでも良い方向に動くことを期待して、生物相の解明や保全に向けた取り組みに微力ながら貢献できればと考えています。次にまたクレーンで吊るされるとき、目に焼き付けたあのアメンボの楽園がどうかそのままでありますように。ダイトウオオコウモリやダイトウコノハズクもどうかご無事で。









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