2019/12/10

処暑の道東

9月末 

-木々の梢をわたる風にも涼気を覚える一週間の道東遠征記


1日目

本遠征では、標茶にある京都大学フィールド科学教育研究センター北海道演習林の宿泊施設にお世話になりました。格安で居心地よく、何不自由なく暮らすことのできる空間です。まずは標茶に向けて新千歳空港から一気に(PAでザンギつまんだり、びっくりドンキーでハンバーグ食べたりもしながら)300kmドライブ。



施設に着いたのは夜9時。施設内を案内してもらうと早速着替えて夜間散策へ。
今回はがっつりフィールド系やどけんOBら4名なので、出だしから勢いが良い。
施設を出てすぐ小さな水路があったので網を入れてみることに。わらわらと浮いてきたのは寒冷地の池沼や湿地に生息するアサヒナコマルガムシとホソダルマガムシ。

かわいらしいアサヒナコマルガムシ
福島で見た本種より赤みが強いような。

少し開けた浅いところには、クロマメゲンゴロウや北海道にのみ分布するマツモトマメゲンゴロウ、オオナガケシゲンゴロウ。

 左:クロマメゲンゴロウ、右:マツモトマメゲンゴロウ

幸先のよいスタートとなった。


2日目
朝8:30頃に施設を出発し、水生昆虫愛好家たちの間では有名らしい沼へ。道中、ホルスタインの群れの中にホルスタイン柄の野良猫が紛れ込んでいるのを発見し、車内は大盛り上がり。

沼に着くと付近に牧場があるため匂いはきついが、そんなこと忘れちゃうくらい水生昆虫が豊富。大型種から順にゲンゴロウモドキ、エゾガムシが続々と網に入る。跗節の張り出しに感動。



 左:ゲンゴロウモドキ♀有溝型、右:エゾガムシ

他のオスとの交尾を妨害する交尾栓(Mating plugs)もしっかりと確認。



中型種はオオシマゲンゴロウ、エゾヒラタヒメゲンゴロウ、キタヒメゲンゴロウ、マルガタゲンゴロウ、エゾコガムシなど。

小型種もアツい。ひと網でわかるキタマダラチビゲンゴロウパラダイス。

さらに、採りたくて仕方なかったチャイロヒラタガムシが目の前に。金色だしでかいし。

さらにさらに、Minoshima (2019)によって日本から記録されたばかりのEnochrus affinisも。 
左:チャイロヒラタガムシ、右:Enochrus affinis


お昼は近くの駅の軽食コーナーでホタテフライカレーと北海道名物3点が串に刺されたなんじゃこりゃスティックとかいうものを食べた。

次は清流に棲むゲンゴロウを目標に東へ東へ。
岸辺にはいい感じに植物が茂り、ちょうど膝くらいの水深で、川底もいい感じのなんかちょうどいい川。岸際をじっとのぞくとマルガタシマチビゲンゴロウがあちこちから飛び出しては隠れている。一回り大きいエゾカノシマチビゲンゴロウやシマチビゲンゴロウもいた。
マルガタシマチビゲンゴロウ

ちょうどいい感じの川のすぐ南にある、もっといい感じの大きい川の河川敷にも行ってみた。ワンドの岸際をそっとかき混ぜていると、シジミガムシ属sp.とコセスジダルマガムシが少数だが浮いてきた。

夜は、なんと施設で研究されている先生や学生の方々が我々を歓迎するジンギスカンパーティーを催してくださった。周辺の生き物のこととか研究のこととかお話した。


3日目
朝8:30に施設を出発し、南へ南へ。
そこではマイナーな半翅類がいくつかみつかった。
左:透き通るようなキタミズカメムシ、右:ケブカミズギワカメムシ

お昼はドライブロマンという定食屋さんでおいしい生姜焼き定食をいただいて、北のほうの海岸沿いにある湿地に行ってみることに。ここにはエゾシカの群れがいて、じろじろ見てきてちょっとやりにくい。おじゃまします。

シカの目を気にしつつ、スジヒメガムシやクナシリシジミガムシを採集。ゲンゴラー先輩がE. affinisでもコヒラタでもなさそうな黒くてツヤのあるヒラタガムシ属sp.を採っていて自分も必死に探したが見つからず。。。あれはなんだったんだろうな。

一旦水生昆虫から離れて付近の海浜へ向かった。狙いは海浜性ケシガムシであったがそれらしいものは採れず、ハマベオオハネカクシやそれ以上にうれしいゴ・ミ・ダ・マが。クモ屋さんもエゾコゲチャハエトリとかイソコモリグモとか見れて満足げ。

 左:ホネゴミムシダマシ、右:ホソハマベゴミムシダマシ

少し日が落ちてきたが、急いで次の池へ。

ここでついに目標種のひとつ、セアカアメンボに出会う。この池には多数のナミアメンボと池の奥のほうにはヤスマツアメンボもいたり。

念願のセアカアメンボ

この日は帰りにスーパーで具材を買ってシーフード少なめシーフードカレー。

1杯目なのでまだシーフード多め


4日目

ところで、北海道で記録のあるカタビロアメンボ科がナガレカタビロアメンボとマダラケシカタビロアメンボだけと聞いて信じられるだろうか。ホルバートとかタダケシみたいなどうせいるだろう種をしれっと記録することを目論んでいた。ここまでの3日間、ほんとにマダラしかいなくて内心焦りを感じていた。

そんな中向かったのは葦が茂りに茂った湿地。オオシマゲンゴロウやババアメンボ、シロヘリミズギワカメムシ、クモ屋大興奮のカムイハシリグモがいたりと良い流れだが、しかしどこを見てもやはりケシカタビロはマダラばかり。

カムイハシリグモ


かきわけてかきわけて、広がるはマダラの楽園

お昼は安くてネタの大きい美味い寿司を食べた。牡蠣の軍艦はレモンを垂らして絶品でした。ちょっとゆっくりしすぎて、午後は根室方面の目的地へ。


あたり一面ミズゴケ湿地になっている北海道らしい素晴らしい湿地に入った。ヨツボシクロヒメゲンゴロウやウスイロナガケシゲンゴロウ、コヒラタガムシ、ミズムシ科ミズムシ属のミズムシなどが採れた。さらにミズグモもたくさん見ることでき、小さな幼体からそこそこ大きいものまでいた。


日が傾き始めた頃、またまた近くの砂浜に行き、漂着物の下に潜む昆虫を探すことに。

ここでは海浜性ケシガムシ属数種がめちゃめちゃに採れた。大漁。
ケシガムシを黙々と摘んでいるうちに、気がつくとあたりは橙色に染まり、夕焼け空になっていた。ノスタルジックな気分にながら砂浜を後にし、夜は豚丼を食べた。
どこかなつかしいあの時の空



5日目

森に囲まれた池に棲むというエゾゲンゴロウモドキを求めて、2日目に行ったちょうどいい感じの川の上流にある池へ。急斜面の藪漕ぎを十数分続けるもなかなか池にはたどり着かず、地図を確認してはエゾゲンモが網に入る想像をして登り、また地図を確認しては想像して登り、さらに数十分登り続け、地図上では池のあるポイントまできたが池の雰囲気は全くない。やむなく諦め、みな無言で下山。
このままでは帰れないと轍にできた水たまりからミズギワカメムシ科sp.を意地で見出した。
この藪漕ぎの最中に負った切り傷がのちに起こる災いの元凶となる。

車内はいつも陽気で、次の目的地知床に着く頃にはすっかり気分が晴れ、知床昆布ラーメンを食べ、デザートに深層水ソフトクリームまで食べた。



ただただ知床の大自然や羅臼岳の迫力に圧倒され、立派な角をもったオスのエゾシカに出会って圧倒され、この日は終了。

夜ごはんはちゃんちゃん焼き。

大迫力の羅臼岳


6日目

この日は朝9時から施設内の演習林内を案内していただくことに。演習林内はそこかしこから水が染み出し、湧き出し、沼となり川となり、想像以上に素晴らしい水環境であった。ここでようやく目標種でもあったHelophorus orientalisやチビコガシラミズムシ、キタコマルガムシなどを採集することができた。とってもうれしい。初めエゾセスジガムシかと思いましたが、写真を見せて平澤さんにorientalisだと教えていただきました。
左:H. orientalis、右:キタコマルガムシ

お昼は案内していただいた先生行きつけのハンバーグ屋SORAへ。このお店では標茶のブランド牛である「星空の黒牛」を使ったハンバーグが食べられる。標茶に行ったらぜひ。


すっかり演習林を気に入ってしまった我々は、午後も演習林に入り浸ることにした。さらに奥のほうまで進んだ先にある沼では、これまた今回の目標種であったキタヒメアメンボが見つかった。本種は旧北区に広く分布する種で、ヨーロッパなどでは性選択に関する研究にしばしば用いられている。国内では1997年に生息が確認され、現在は北海道、青森、岩手、福島で記録されている。ずっと探していた憧れの種だったので喜びもひとしお。

キタヒメアメンボ


夜はスーパーで具材を揃え、みんなで4日ぶりのジンギスカンを作った。うまそう。


しかし作ったはいいものの、突然食欲がなくなり悪寒がし始め、結局ほとんど食べられずに部屋へ。案の定、熱が出始め、チェックアウトの準備や標本整理、生体写真撮影大会をなんとかこなして寝床へ。今思えばけっこうな熱だったようで漫画みたいに濡れタオルで額を冷やし、うめき苦しみながら夜を過ごした。


7日目

やはり体調はすぐれなかったが、早朝に施設を出発し新千歳空港へ300kmドライブ。
この場を借りて運転してくださったフィールド系やどけんOBの方々に感謝申し上げます。

後日病院に行って血液検査してもらうと、何らかの細菌に感染しているらしいことがわかった。

思い当たるのはあの藪漕ぎで負った傷口。ゲンゴラー先輩に液体絆創膏をもらってはいたものの、そういえばきちんと洗ったり消毒したりしていなかった。
校庭で転んだら傷口を洗うよう大人にうるさく言われるのはそういうことかと思った。幼稚園から教わっていたことを大人になってようやく身をもって理解した。深く反省した。
当然のことだが、これからフィールドに出るときは消毒液や絆創膏などを持ち歩こうと強く思った。


ホルスタインに紛れ込む野良猫(撮影:Sasagani_ya)


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